資金調達を通じ、「日本を変える」ベンチャー企業を支援する NTTグループ財務アルムナイインタビューVol.7 伊藤 孝允さん
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NTTグループを卒業後も活躍を続ける、アルムナイのみなさんをご紹介する本連載。第7回は2009年から約8年間NTTビジネスアソシエに在籍し、不動産投資会社への転職を経て、現在はベンチャーキャピタル(以下VC)の伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社で、管理部長兼ファンド運営管理部長を務めていらっしゃる伊藤 孝允さんです。
NTT時代に複数のグループ子会社の決算・税務業務全般、連結報告業務に従事した際の経験から、徹底した業務標準化や効率化のハウツーを学ぶことができたという伊藤さん。転職後にこの経験がどう活かされているのか。そして、現在お勤めのVCの仕事のやりがい、ビジョンについても熱く語っていただきました。
(プロフィール)
伊藤 孝允(いとう こういん)さん
2004年に化学品メーカーに入社し、経理部門にて決算業務及び税務申告業務等を経験した後、2009年にNTTビジネスアソシエに入社。グループ会社における経理業務のシェアード化の推進及び受託子会社の会計税務業務に従事した後、2014年に持株会社へ異動し、連結決算及び主要子会社の財務分析業務を担当。
2017年に三菱HCキャピタル株式会社に転職。不動産投資子会社の管理部門統括及びファンドマネジメント業務に従事した後、2023年1月に伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社へ。現在は管理部長兼ファンド運営管理部長として、ファンド管理、投資家対応、ファンドレイズに従事している。
――まずは、NTTビジネスアソシエに入社されたきっかけについて教えてください。
大学卒業後、最初に勤めたのはある化学メーカーでした。5年間にわたって決算業務や税務申告業務を経験し、経理の基本的な業務は一人でできるようになってきたと感じたタイミングで、次のステップを考えるようになりました。
その頃、複数のグループ会社で共通する経理や人事などの間接業務を、一つの部門や子会社に集約するシェアードサービスが注目を集めており、ぜひ挑戦してみたいと思いました。そこで、多くのグループ企業のシェアードサービスを推進するNTTビジネスアソシエに転職したのです。
転職後はシェアードサービス推進部門に所属し、グループ子会社の決算・税務業務全般、連結報告業務に従事しました。そこで注力したのが、業務標準化や効率化の推進です。
当時は数十社にも及ぶグループ各社に対し、それぞれ独自の実務フローで決算書などのアウトプットを作成しており、膨大なリソースがかかっていました。そこで、各社で異なる実務フローを整理し、統一的なプロセスを構築したうえで、アウトプットも統一しようというプロジェクトに携わったのです。
――なかなか一筋縄ではいかないプロジェクトとお見受けしますが、どのような点に苦労されましたか?
やはり取引先であるグループ各社とのコミュニケーションです。各社のみなさんからすれば、今までのやり方を変えなければならないので、抵抗があるのは当然です。そこで、今後担当者の変更などが起こると、これまでと同品質のサービスを提供できなくなる恐れがあること。それを防ぎ、常に高品質なサービスを提供するための標準化であることを根気強く説明しました。そのうえで、標準化による先方の不利益や不都合となり得る要素を一つひとつひも解いていき、解決策を提示することで、なんとか納得してもらうことができました。最終的には私たちのめざすところを理解していただくことができ、チーム一丸となって「全社誤謬ゼロの決算」を実現できたことは、非常に大きな達成感につながりました
その後も当プロジェクトをNTTビジネスアソシエ東日本に移管するにあたって、1年ほど常駐し、プロジェクトリーダーとして業務移管を行ったのですが、ここでも標準化のいろはを徹底的に身に付けることができました。標準化とはすなわち、経理経験の多寡に関わらず、誰がやっても間違いなく業務を行えるシステムを構築することです。そこでマニュアルを制作したり、チームメンバーに勉強会を行ったり、これからジョインする人向けに勉強用DVDを作ったりと、自分たちがいなくとも業務が効率的にまわるシステムを構築し、業務移管を完遂することができました。
――その後、持株会社である日本電信電話株式会社(当時)の財務部門に異動されるのですね。
はい。持株会社としての単体決算や、財務戦略委員会に提出する資料作成などを担当しました。この業務を始めるにあたって、まずはNTTグループ各主要会社のビジネスを学びなおしました。というのも、中途入社かつ、これまでの業務では主要会社との取引がほぼなかったため、NTTグループ全体の収益モデルをあまり把握できていなかったのです。それを頭に入れたうえで、会社の業績分析や連結決算の増減要因を整理し、資料に落とし込んでいきました。自らの分析が経営層の意思決定に直結するという緊張感と責任の重さを感じつつも、グループ全体を俯瞰した経営の視座を学ぶことができたことは、大きな経験となりました。
もう一つ、この業務を通じて強く感じたのが、NTTの人を育てるカルチャーです。財務戦略委員会資料の作成は当時4名で行っていたのですが、当時の上司がメンバー一人ひとりの得意分野と不得意分野を把握し、時には不得意分野の仕事に挑戦する機会も与えてくれました。例えば私は英語が苦手だったのですが、あえて英語のレポートを読み込んでまとめる仕事にアサインしていただきました。そのおかげで英語へのアレルギーを克服することができたように思います。
一度、英語で資料を作成する機会をいただいたことがあるのですが、最終的には資料の日付以外はほぼ手直しを受ける結果となってしまいました。自分が今管理職という立場になってみて振り返ると、「よくあそこまで付き合ってくれたな」というのが正直な感想です。こうした手厚い部下育成は、ある種「NTTあるある」であるとも聞きます。それだけこうしたカルチャーが根付いているのだと感じますし、当時の上司には非常に感謝しています。
――その後転職されたのは、どのような理由からでしょうか?
3年間持株会社に在籍した後、ビジネスアソシエに帰任することになりました。また当時は結婚から2年が経ち、ちょうど子どもが欲しいと感じていたタイミングでした。そこで、やりたいことと働き方の両面から、キャリアを改めて考え直すことにしたのです。その際に、不動産投資会社とベンチャーキャピタル(VC)の二択が、次のキャリアの候補として挙がりました。
当時は投資に興味があったのと、将来的には起業したいという想いもあったので、投資と会社経営を両方学べるVCが第一候補でした。しかし当時は今と違ってVCの会社自体が少なく、求められるスキルも高い狭き門でした。一方で不動産投資会社であれば、学生時代に取得した宅地建物取引士の知識や、これまで培った会計・財務のスキルを直接活かせる環境が整っており、経営基盤の構築や管理体制の整備といった実務に直結する領域に深く携われると考え、2017年に三菱HCキャピタル株式会社に転職しました。
三菱HCキャピタルからは、設立から間もない不動産関連子会社に出向。バックオフィス全般の整備と、不動産ファンド運営の両方に携わりました。バックオフィスのシステム導入や規程整備といった“仕組みづくり”において、効率的にバックオフィス業務をまわすための勘どころを押さえることができたのは、NTT時代の標準化・効率化の経験のおかげだと思います。
その後ご縁があって、夢だったVCへの転職を実現。2023年1月より、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社に勤めています。
――現在のお仕事について教えてください。
管理部長兼ファンド運営管理部長として、ファンドの運営や投資家対応、ファンドレイズ(事業会社や機関投資家からの資金調達)に携わっています。元々営業的な仕事もやってみたいという想いがあったので、こうした外部との交渉には非常にやりがいを感じています。直近のファンドレイズでは約160億円を集めるプロジェクトに関わることができ、とても大きな経験になりました。
――VCの仕事のやりがいは、どのような点にあると思いますか?
日本は失われた20年、30年とずっと言われ続けていますよね。そういった中で、最近起業された方にお話を聞くと、自分がお金儲けをしたいというよりも、日本を変えていきたいという想いの強さを感じます。そういった方に資金を届けることで、独自の知的財産をもって海外と戦える企業に成長するまで支援しつづけるという仕事に、魅力を感じています。
この仕事においても、NTT時代に学んだ財務知識が、ファンド運営や投資家対応の様々な場面で活きていると実感しています。また、精神的な意味においても、「NTT時代あれだけ働いたんだ」と思える経験があるからこそ、様々な場面で「物おじせず発言できる度胸」につながっており、今の仕事を進める上で大きな支えになっていると思います。大企業で培った堅実さと、VCに必要なスピード感を両方意識しながら、日々の仕事に取り組んでいます。
――今後のキャリアビジョンについてもお聞かせください。
資金調達ではなく、実際にスタートアップに投資する側もやってみたいですね。ただそれには、投資の適正性を見極めるための幅広い知識や経験が問われます。海外の最先端トレンドを知るためには語学力も必要です。今後も仕事や勉強を通して、挑戦できる素養を身に付けたいと思います。
――ありがとうございます。最後に、NTT財務アルムナイコミュニティへの期待についてもお聞かせください。
VC同士というのは一見ライバル関係に見えるものの、実際には互いに協調して1社のスタートアップを支えていくこともあるなど、協力関係も強固です。こうした精神はアルムナイにも重なると感じています。別の会社にいってもアルムナイ同士でスキルや経験を共有し、相互に協力しあえる体制がつくれるといいなと思います。起業された方や起業家の友人をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひ一度お話したいと思っています。
「資金を通して起業家を支援することで、日本を変えよう」という現職の経営哲学に共鳴し、熱い気持ちを持って仕事に取組んでいる伊藤さん。バックオフィス運営においてもファンドレイズにおいてもNTT時代の経験が活きているというお話を伺い、非常にうれしく感じました。
NTT全体のアルムナイ交流会でも、想いをもった起業家との出会いで心打たれたとお話してくださいました。こうした出会いが生まれるのがアルムナイコミュニティならではだと思いますし、ここからビジネスのご縁につながれば、さらに有意義だとも感じました。
起業されている方、起業家のお知り合いがいる方はぜひ伊藤さんにコンタクトをとってみてはいかがでしょうか。事務局からおつなぎすることも可能ですので、お気軽にご連絡ください。今回はありがとうございました。
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