NTTグループを率いる財務リーダー育成のために 財務部長 インタビューVol.1NTTファイナンス株式会社 代表取締役副社長 財務事業本部長 中村 卓司
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NTTグループ主要会社の財務部長が、これまでのキャリアと今後の目指す未来について語る本連載。
第1回はNTTファイナンス株式会社 中村卓司 代表取締役副社長です。財務事業本部長を兼任し、当財務アルムナイコミュニティの発起人でもある中村副社長。
自身の大切なポリシーである「多様な価値観を尊重する」ことについて、そしてNTT財務の現在地と、未来を切り拓くための人材開発について伺っていきます。
(プロフィール)
中村 卓司(なかむら たかし)
NTTファイナンス株式会社 代表取締役副社長 財務事業本部長
大阪大学法学部を卒業後、1987年日本電信電話株式会社に新卒入社。
会計や税務の実務経験を積んだ後、NTT主要各社にて財務部門のマネージャーを歴任。2022年6月より現職。
――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、入社した頃のことを教えてください。
私がNTTに入社したのは1987年のことです。当時はバブル経済が始まった頃で、同級生は金融業界に就職する人が多数いました。その一方で、私は世の中の役に立つことを肌で実感できる仕事をしたいと考えていました。志望していたのも、コンシューマー向けのメーカーやインフラ業界です。
その中で最初に内定をもらったのがNTTでした。これから大きく発展する通信の未来への期待感からすぐに入社を決め、配属面談ではデータ通信や画像通信に関連する事業企画を希望していましたが、配属されたのは、経理部の税務担当だったのです。
「世の中の役に立つ仕事がしたい」という自分の希望と「目の前の細かい数字やルールとひたすら向き合う財務の仕事」とのあまりのギャップに戸惑い、正直かなり悩みましたが、当時の先輩や上司のアドバイスもあり、一度自分が納得するまでやってみることにしました。
業務を続けていくうちに、財務という仕事の重要性や、間接的にではあれ、自分の仕事がNTTという会社の役に立ち、ひいては世の中の役に立っているのだという結びつきを実感する瞬間が訪れたのです。そこからは、財務の仕事に没頭していくようになりました。
――それ以降のキャリアについて教えてください。
10年ほど実務を経験した後、日本電信電話株式会社の財務部門で、マネージャーの入口である担当課長に就きました。当時はちょうどNTTグループが再編成され、日本電信電話株式会社が日本で初めての純粋持株会社になったタイミングでした。
当然、純粋持株会社の財務に関する前例もなければ他社の事例もありません。そんな状況下で多くのグループ企業をとりまとめ、ルールや仕組みを整える必要がありました。さらに同じタイミングで日本の会計基準も大きな改正が行われ、その対応も並行して行っていました。仕事に忙殺される毎日でしたが、汗をかいた分結果が返ってきたので、やりがいを感じてもいました。何より「この仕事は自分にしかできない」という誇りがモチベーションになっていたように思います。
がむしゃらに働いた6年を経て、2005年、NTT西日本に異動した時のことです。「自分がいなくても大丈夫だろうか」という心配とともに古巣を振り返ると、何のことはない、問題なく仕事はまわっていました。このとき、「この仕事は自分にしかできない」というのは単なる思い上がりにすぎず、「仕事というのはチームでするもの」ということにあらためて気付かされたのです。同時に、当時の自分は一人で仕事を抱えるあまり、部下に適切に仕事を渡し育成していくという視点が欠けており、むしろ彼らの成長機会を奪ってしまっていたと強く反省しました。
それ以来、私は仕事のやり方を180度変えました。部下を信頼して仕事を任せる。逆に、部下から上がってくる報告のなかでリスクを感じる案件があれば注視して、アドバイスするようにしています。
こうした「危機察知能力」ともいえる感覚は、長いキャリアの中で身についたものです。振り返ると、記憶に残っているのは成功体験よりも失敗体験ばかり。一歩間違えれば会社に被害をもたらしかねなかったこともあります。しかし、いくつもの失敗とリカバリーを経験することで、リスクや危機を察知し、対策するスキルを身につけることができました。こればかりはやはり経験がものを言う世界であり、キャリアを重ねたマネージャーの重要な仕事の一つだと思っています。
――マネージャーとして大切にしていることはありますか。
マネージャーに限らず、人生全体において私が常に心掛けているのは、多様な価値観を尊重することです。
価値観や考え方は、人それぞれ異なります。だからこそ独りよがりになることなく、お互いを尊重し、認め合うことが必要です。このポリシーは主に大学時代に形成されました。国際政治を専攻しており、世界中で起こっている様々な摩擦や紛争には絶対的な正義や正解はないのだということを、当時の恩師や出会った人たちから学んだのです。
自分の主観で相手を判断するのではなく、自分と相手とを俯瞰する。相手の考え方をまずは素直に受け入れて、内面化してみる。そうすることで、新たな世界の捉え方を発見することができるように思います。私は役職や年齢、関係の深さにとらわれず、人によって態度を変えないということも心掛けていますが、それもこうした考え方によるものです。
仕事において、多様性豊かな組織は強い組織です。様々な価値観をもつ人たちが集まり、議論し、互いを高めあえるような組織が、私の理想です。
――現在注力されていることについて教えてください。
一番の関心事は財務リーダー人材の育成です。今、NTTグループ全体で財務人材が不足しています。実務に関しては各事業会社で経験を積めば身につきますが、グループの全体像を把握し、ビジョンを策定し、推進できるような、リーダーやマネージャーの役割を担える後継者が少ないことに危機感を抱いています。
この問題にあたるべく、私が統括する財務事業本部の中に、NTTグループ横断での財務人材開発などを担う事業推進部を立ち上げました。こうした役割を担う部署は今までグループに存在しておらず、それがNTT財務の弱みであるとも感じていたからです。今後は事業会社や持株会社など、企業の垣根を越えて様々な財務関連部署を経験する中でリーダー人材を育てていく仕組みを構築していきます。
――この財務アルムナイコミュニティの立ち上げも、この課題と関連するのでしょうか。
アルムナイ活動を提案したのは私ですが、この課題をすぐさま解消するためのソリューションとして立ち上げたわけではありません。
前に述べた通り、私は多様な価値観を大切にしています。NTTを巣立った皆さんの価値観やキャリアから学ばせてもらいつつ、皆さんの豊かな人生にも何かしらの形で貢献できれば、という気持ちで運営しています。キャリアや仕事はもちろん、プライベートな関係性も築いていただきながら、長く続くネットワークにしていくのが理想です。もちろんこのコミュニティをきっかけにNTTの現在地とビジョンを知って、次のキャリアの選択肢として興味を持っていただけたら、こんなにうれしいことはありません。
私自身も交流会等、度々顔を出しています。同窓会に顔を出すような気持ちで、ぜひ気軽に参加してもらえたらと思っています。皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。
- CATEGORY :財務部長インタビュー