市場と社会の先端をとらえた「ビジョン型」の財務へ 財務部長インタビューVol.3 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 財務部長 宇野 善宏
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NTTグループ主要会社の財務部長が、これまでのキャリアと目指す未来について語る本連載。第3回はNTTコミュニケーションズの宇野善宏 財務部長です。
主にNTTファイナンスや持株会社で財務・資金、経営企画に携わった後、NTTコミュニケーションズに着任した宇野部長。「外部から積極的に情報収集し、時流をとらえて行動する」というポリシーは、どのように築かれたのでしょうか。また、それを現在の財務部長としての業務にどう活かしているのでしょうか。詳しくお話を伺いました。
(プロフィール)
宇野 善宏(うの よしひろ)
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 財務部長
滋賀大学経済学部を卒業後、1997年日本電信電話株式会社に新卒入社。
NTTファイナンスや持株会社で主に資金調達、経営企画に携わる。
2020年NTTコミュニケーションズの財務部資金管理部門長に着任し、2023年6月より現職。
――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、入社前のことを教えてください。
子どもの頃から人と同じであることを良しとせず、「揺るがない個性を持っていたい」「自分主導で組織や世の中を変えたい」という思いが強いタイプでした。そのため、就職活動も「社会を変革できる仕事」を軸に行っていました。そのなかで、「社会を大きく変革するには資金がドライバーになる」と考え、大手金融機関を第一志望にしていました。いくつか内定も得ていたのですが、当時所属していた大学サッカー部のOBから「通信でも社会変革は起こせる」と NTTに誘われました。
当時通信業界は本格的なインターネット時代の到来を控え、変革の最中にあったことから、その言葉にリアリティを感じました。それに加え、「目に見えないもので社会が変わる」ことへの興味が湧き、その変革の主体者になってみたいと思うようになったのです。このことがきっかけで、NTTに入社しました。
入社後は、中小企業向けの法人営業を3年間経験した後、人事制度運用を行うチームに異動となりました。
――その異動はご自身で希望されたのですか?
いいえ。元々は自らの手で社会変革を起こすことを志していたこともあり、大企業向けの法人営業を希望していました。「思い描いていたキャリアとは異なるスタートになったな」というのが当時の正直な感想でしたね。
とはいえ、飛び交う用語や理論、概念は初めて見聞きすることばかり。将来新しいキャリア目標が生まれたときにきっと役立つと信じ、知識を吸収することに全力を傾けていました。
その後は、まったく別のベクトルの仕事に就くことで自分を大きく変えたいという思いから、グローバル部門への異動を希望しました。しかしポストに空きがなく、海外領域にも触れることができる財務部門に異動することになりました。それが私の財務としてのキャリアのスタートでした。
またしても希望は叶いませんでしたが、財務会計というこれまで経験したことがない領域に触れられたということに対しては、刺激や面白さを感じてもいました。
――財務の仕事の中では、どんな点に面白みややりがいを見出していましたか?
2007年から約6年間 、持株会社とNTTファイナンスで、資金調達に携わりました。これが私のキャリアのなかで大きな転換点だったように思います。
というのも、資金調達は財務のなかでも特に社外――主に金融機関や投資家と接する機会が多い仕事です。市場や社会の変化に常にアンテナを張り、最新の情勢をキャッチアップし続けている彼らと会話する中で、「世界市場の中のNTT」という存在について強く意識するようになりました。
具体的には、NTTという会社が市場の中でどのような役割を果たしていくべきなのか、逆にこの市場を活かしてNTTをさらに飛躍させるにはどうすればよいか。そんな大局的な視点を養うことができたように思います。
そういった意味では、私が大学時代に思い描いていた「資金で社会変革を起こす」というビジョンに繋がっているのかもしれません。大学時代に就職を希望していた金融機関と、今私が携わっている事業会社の中の財務、すなわち金融機能を司る部門は、金融業を生業としているかどうかの違いだけ。資金を使ってビジネスを成長させていく、社会を変えていくという点においては同じと言えるでしょう。
――ご自身が関わられた中で、特に印象深いプロジェクトについて教えてください。
ありがたいことにこれまで、様々な領域で、会社として初めての試みにチャレンジする機会に恵まれました。例えばNTT初の個人向け社債発行や、NTTファイナンスとしての外債の発行。他にも事業譲渡や、株主優待でのdポイント付与開始にも関わりました。
中でも意義深く思い出深いプロジェクトは、NTTファイナンスで行った初めての外債発行です。海外の投資家にはNTTは知られていても、NTTファイナンスという会社は当時ほとんど知られていませんでした。NTTファイナンスは、NTT財務の諸先輩方がグループ全体の資金効率化実現に向け、組織体制や資金調達・供給プロセスを一から築き上げた、その結果として誕生した会社です。そのNTTファイナンスが海外からの資金調達を主体的に行っていくためにも、海外投資家への知名度と、世界市場のなかでのプレゼンスを高めることは必須でした。
法務や会計など、いくつもの部門が協力しあって一丸となって取り組んだこと、当時のメンバーが幅広く海外投資家を訪問しNTTファイナンスのグループでの役割などを丁寧に説明してくれたこともあり、初の外債発行が実現できたときは、感慨深い気持ちでいっぱいになりました。このときに作ったベースを活用し、今に至るまで何度か外債発行が実施できているという点でも、実現してよかったという気持ちです。
こうしたNTT初の試みの数々は、全て世の中の変化をとらえての行動です。例えば個人向け国債の発行は、リーマンショックによって金融市場から資金調達が困難になったことから踏み切りました。また、人材派遣事業の譲渡は労働派遣法の改正、dポイントの付与は個人の株主が優待を重視する傾向が強まったことも背景にあります。
こうした時流をとらえて行動することの大切さは、前述した資金調達時代に金融機関や投資家と接する中で実感し、今も私の中のポリシーになっています。
――宇野部長が考える、これからのNTTコミュニケーションズ財務のあるべき姿について教えてください。
今までの財務は、とにかくコスト効率化に注力することが求められてきましたが、それがだんだん限界に近づいてきており、財務人材も疲弊しつつあると私は感じています。だからこそ私は、今後財務がどう価値を創造しプレゼンスを高めていくべきかという新たなビジョンを指し示すことで、財務人材一人ひとりがやるべきことを明確化する。そうすることで心理的安全性を担保し、疲れをとってあげたいと思っています。
具体的には、各部署からの問い合わせ対応といったオペレーショナルな業務を最大限効率化し、戦略立案といった付加価値の創造や自身のスキルアップに注力できる体制を今整えつつあります。過去の問い合わせと回答をデータベース化し、生成AIを使って自動回答できるようなシステムの構築にも取り組んでいます。まだまだ道半ばではありますが、3年後にはうまく運用できるような体制をめざしていますので、ぜひご期待いただければと思います。
こうした点については、アルムナイの皆さまの中で詳しい方、同様の課題に取り組んでいる方がいらっしゃいましたら、ぜひお話を聞かせていただきたいですね。
――他にもアルムナイの皆さんに期待したいことはありますか?
一つは、若手財務人材との交流です。前述したように、私は外部の方々と接するなかで時流をキャッチアップすることの重要性に気が付きました。社内で議論しているだけでは、新しい情報やアイデアは入ってきません。ぜひNTTと外部、両方を経験されている皆さんとのコミュニケーションのなかで、若手人材が気づきを得られる機会を持てるといいですね。
何より、NTTはみなさんにとってふるさとの一つです。できる限り交流を持ち、ゆるやかなコミュニティとしてささやかな拠り所となっていければいいなと思っています。交流会などでは、ビジネスに限らず思い出話やこれからの人生など、たくさんの話題で盛り上がれたらと思っています。皆さんにお会いできることを楽しみにしています。
- CATEGORY :財務部長インタビュー