不動産デベロッパーならではの財務会計経験をアセットマネジメントに活かす NTTグループ財務アルムナイインタビューVol.6 田中 貴史さん
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NTTグループを卒業後も活躍を続ける、アルムナイの皆さんをご紹介する本連載。
第6回は2014年から約10年間にわたってNTT都市開発に在籍し、現在は不動産ファンド運用会社のクローバー・アドバイザーズでアセットマネジメントに携わっている田中 貴史さんです。
NTT都市開発ではプロパティマネジメント※1やアセットマネジメント※2を経験した後、財務部へ異動し、不動産デベロッパーならではの重要な会計業務に携わることができたといいます。デベロッパーにおいて重要な会計業務とは。また、その経験がアセットマネジメントにどう活かされているのか、そのキャリアについてお伺いしました。
※1 プロパティマネジメントは、建物や施設の運営・管理業務を指し、オーナーの代行として
テナント対応や設備の保守、賃料の請求・回収など不動産の運営に関わる業務を行う。
※2 アセットマネジメントは、投資家目線での不動産という資産の価値を最大化するための
戦略的な運用管理を指し、物件の取得・売却、収益性の分析、ポートフォリオの最適化な
どを行う。
(プロフィール)
田中 貴史(たなか たかし)さん
2014年、NTT都市開発に新卒入社。不動産ファンドで運用されているオフィスビルのプロパティマネジメント、私募REITのアセットマネジメントを経験した後、財務部会計担当として不動産の継続鑑定評価、減損判定、連結決算業務等に従事。
上場REITのIR担当を経て、2024年10月に不動産ファンド運用会社のクローバー・アドバイザーズに転職。
現在は物件の取得・運用・売却などのアセットマネジメントに携わっている。
――まずは、NTT都市開発に入社されたきっかけについて教えてください。
大学時代、自分が住んでいた地域に良い不動産が建ったことで、周辺エリア全体に良い影響を与え、より活気ある街へと変貌を遂げたという出来事がありました。この様子を目にしたのをきっかけに、まちづくりに興味を持ち、不動産デベロッパーを志望するようになりました。
なかでもNTT都市開発に決めた理由は、NTTグループであるが故の高い信用性です。不動産開発には多額の資金を要するため、低い利率で資金調達ができるという点でメリットが大きいと思いました。また、他の大手デベロッパーは東京や大阪といった大都市圏の開発が中心でしたが、NTT都市開発は全国各地に不動産を保有しており、地方のまちづくりに貢献できることも、魅力に感じた点の一つです。
入社当初はやはり花形の開発部門を志望していましたが、研修で様々な部署を知っていくうちに、当時立ち上がったばかりのファンドビジネスに興味を持ちました
当時は日本の不動産業界にファンド系人材が少なかった時代です。ここでスキルと経験を身に付ければ、人材としての市場価値を高められると思いました。また開発は長期間にわたり、多くのメンバーで取り組むビッグプロジェクトです。自分が携われるのはそのうちのほんの一部であり、プロジェクトが完了する前に異動になってしまう可能性も高い。それならば、建った後の不動産の価値を高めるファンドビジネスの方が、自分の取り組みの成果がスピーディかつダイレクトに表れるという点で、やりがいを感じられそうだと思いました。
――NTT都市開発時代のお仕事について教えてください。
最初の配属はアセットマネジメントを希望していたのですが、まずは物件価値を高めていくための現場実務を理解するということで、プロパティマネジメントの担当となりました。
会社が保有するビルの担当として管理全般を行っていましたが、中でも最も重要な仕事はテナントの賃貸借契約対応でした。具体的には、テナントと交渉して賃料を上げたり、逆に減額交渉をされた場合はなるべく減額を抑えたりするというものです。
テナント賃料は不動産価格にダイレクトに反映され、その不動産のファンドを保有している投資家にとって重要なトピックとなります。交渉に難航したテナントの元へは何度も足を運ぶなど苦労することもありましたが、その中で不動産管理の実務やリアルを学ぶことができました。
その2年後には、元々希望していた私募REITのアセットマネジメント業務に携わることができました。複数の不動産を一つのファンドとしてくくり、運用計画を立て、利益を最大化し、計画通りに機関投資家に利益を還元するというのが主な仕事です。まるで一つの小さな会社を経営するような、不動産運用の醍醐味を経験することができました。
――ちょうど田中さんのキャリアの軸を形成された時期だったのですね。ちなみに、財務に興味を持たれたのはいつ頃だったのでしょうか?
財務に興味を持ったのは、アセットマネジメント業務を行っていたときのことです。投資家とのコミュニケーションの中で、物件に係る会計処理について説明しなくてはならない場面が幾度かありました。そのなかで、会計業務に関する知識をより深めて専門性を高めたいと思うようになったのです。また、当時は定年までNTT都市開発に勤めるつもりだったので、全社を俯瞰できるような部署に行ってみたいとも思っていました。そこで、財務部に異動希望を出し、希望通りの配属となったのが入社5年目の時でした。
――財務部ではどのような仕事を担当されていましたか?
中でも重要だったのは減損判定であり、その時価の根拠となるのが鑑定評価でした。具体的には、NTT都市開発が保有している不動産の鑑定評価を取得し、時価と簿価の差を集計したうえで、各物件の運営状況も確認するというものです。運営状況については数字で確認するだけでなく、各物件の担当者ヒアリングも行ったうえで、今後も利益を生み出していける不動産なのかどうかを確認します。そして、これらの情報をもとに減損の要否や認識金額を判断し、連結決算に反映する業務を担っていました。
会社が全国にどんな不動産を保有しているのかを把握し、それらすべての詳細な運営状況や、周辺エリアの動向等についても知ることができたのは非常に良い機会でしたし、現在の仕事にも活きている部分だと思います。
また、NTTはグループ全体で国際会計基準を採用していました。ほとんどの他社デベロッパーは日本基準を採用していたため、他社に先駆けて検討、対応しなければならない事項がいくつもありました。こうした検討チームのメンバーにも入れていただき、前例のないトピックについて関わることができたのも良い経験でした。
その後は上場REITのIR担当として、投資家向けにリリースやレポートを作成するほか、機関投資家に対して直接財務状況等の説明も行っていました。投資家と直接コミュニケーションをとるなかで、彼らが考えていることを知ったり、世界情勢や金融市場の動向など、様々なトピックに関心を寄せて情報収集したりする中で、視野を大きく広げることができました。
――転職を考え始めたのはいつ頃でしたか?
IR担当時代、ちょうど入社から10年を迎えたタイミングでした。ジョブローテーションで様々な部署を経験させてもらうなかで、自分が一番面白いと感じたアセットマネジメントのスペシャリストとして、今後のキャリアを形成したいと思うようになったのが主な理由です。
転職先として考えたのは、外資系の不動産会社ファンド運用会社です。外資系を選んだ理由は、IR担当時代に開示資料の英訳チェックを行うなど、ビジネス英語に触れた経験からです。ちょうどレベルアップしつつあるタイミングだったので、せっかくであれば転職を機にさらに英語力を向上させたいと思ったのが理由です。2024年10月、その中でもご縁のあったクローバー・アドバイザーズに転職し、現在は物件の取得・運用・売却を担当しています。
業務内容としてはNTT時代と同じアセットマネジメントなのですが、スピード感は全く異なります。私募REITや上場REITに携わっていたので、長期保有が前提でした。しかし現在は、不動産を購入、バリューアップし、基本的には2~3年で売却します。
長期保有であれば毎年収益が入ってくれば良いという考え方になりますが、短期で売却する場合はインカムゲインよりもキャピタルゲインが重要です。短い期間の中で不動産価格が高まる方法を考え、プロパティマネージャーに実行してもらう必要があるという点は、大きな違いです。
――NTT時代の経験が役に立っていると感じることはありますか?
不動産継続鑑定評価業務の中で、NTT都市開発が保有する全国の不動産やエリアの価値について知ることができたのはやはり大きかったですね。あれだけの数の不動産の情報をインプットできたのは、財務会計ならではの経験だったと思います。
また、不動産の取得や売却においては、多くの会社とのコネクションが重要です。そういった点で、前職で培った社内外の人脈も活きています。先日もNTT都市開発が保有するビルを購入する機会があったのですが、非常にスムーズかつスピーディに進めることができました。また、銀行から資金を借り入れる交渉をする際にも、IR時代に培った金融用語や金融市場知識が活きていると感じることがあります。
不動産ファンド業界は長くても5年くらいで転職する人が多いのですが、当社は10年以上勤めている先輩もいます。その分経験や知識、人脈が豊富なメンバーも多いので、私も長く勤めながら案件を多くこなし、彼らに近づきたいと思っています。
――最後に、財務アルムナイコミュニティへの期待についてもお聞かせください。
ちょうど先日、私もお世話になったNTT都市開発の財務部長の退任送別会に呼んでいただきました。財務時代のみなさんとこうして繋がり続け、キャリアや近況を知ることができているのはとても良いことだと感じています。本財務アルムナイコミュニティの活動にはあまり参加できていませんが、今後はぜひ交流会などにもお邪魔できたらと思っています。
不動産領域でプロパティマネジメントやアセットマネジメント、財務、IRと多くのご経験とスキルを身に着けてこられた田中さん。現在はアセットマネジメントのスペシャリストをめざしているとのことですが、お話を伺う中でNTT時代に培った財務会計時代の経験、金融知識や人脈が今に活きていることを実感しました。
不動産デベロッパーならではの財務会計については、本アルムナイコミュニティの皆さんにとっても学びがあるのではないかと思います。ぜひ、今後は交流会やコミュニティサイトにご参加いただき、知見を交換できたらと思います。
またお会いできる時を楽しみにしております。ありがとうございました。