在職中に司法試験に合格 弁護士を経て再入社という異色のキャリア  アルムナイカムバックインタビューVol.1 中山 貴公さん

NTTグループを卒業後、他のキャリアを経て再入社された方へインタビューする本企画。

1回は2016年から5年間NTTビジネスアソシエ・NTTファイナンスに在籍し、退職を経て
20247月に再入社された中山 貴公さんです。

長年国際税務業務に従事している中山さんですが、元々は弁護士志望。しかしロースクール卒業後は就職の道を選びました。その後、NTTファイナンス在職中に再び司法試験に挑戦し、見事合格。念願の弁護士資格を取得されています。

多忙な在職中に、超難関の司法試験に再挑戦した理由とは?そして弁護士資格を取得後、NTTファイナンスに再入社したきっかけは?その考えや信念について、お伺いしていきます。

(プロフィール)
中山 貴公(なかやま きこう)さん

2016年NTTビジネスアソシエに中途入社し、その後NTTファイナンスに出向。
BEPS対応やタックスヘイブン対策税制申告業務などの国際税務業務に従事。
2021年に司法試験に合格し、1年間の司法修習受講のため退職。
2023年より弁護士として法律事務所に勤務した後、2024年7月にNTTファイナンスへ再入社。弁護士業務も兼務中。 

目次

法曹への道を諦め、就職

――元々、弁護士を志望しておられたのですね。

はい。法学部を卒業後、ロースクールに進学しました。しかし司法試験に合格できず、就職の道を選ぶことにし、総合塗料メーカーの関西ペイントに入社しました。

関西ペイントでの最初のキャリアは、内部統制業務でした。主にインドや南アフリカなどの海外生産拠点を、日本の内部統制制度に基づいてチェックし、評価や改善を行う仕事です。中には敵対的買収によって子会社化した経緯から交渉に難航することもありましたが、コミュニケーションを重ね、何とか調整を行い運用フローを構築していました。

この時の仕事ぶりを買われ、その後海外事業企画に異動しました。海外事業企画では主に東南アジアや中東地域のグループ会社を担当し、業績評価や設備投資計画の作成など、現地法人の経営管理や、本社との仲介などを行っていました。

海外出張も多い仕事でしたが、英語は大学受験以来ほとんど勉強していなかったので、独学や実際にコミュニケーションをとる中で習得していきました。

飛び込んだ国際税務の世界は大転換期

――NTTビジネスアソシエに転職されたきっかけを教えてください

やはり法律に関する仕事に就きたいという思いが強くなり、転職活動を始めました。NTTビジネスアソシエは、選考の途中で国際税務の部署からオファーを頂きました。とはいえ、学生時代に学んだ法律知識がそのまま活かせるというわけではなく、ほとんど未経験の分野です。不安はありましたが、選考過程で出会った社員が皆親切で誠実な印象だったことや、他社の知人がたまたま同部署に出向しており縁を感じたということもあり、思い切って挑戦することにしました。

私が入社した2016年は、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)への対抗施策が本格的に開始されたタイミングです。加えて、NTTグループもちょうど海外グループ会社の再編が相次いでいました。そんな大きな変化の最中に、しかもほとんど未経験で、世界中に散らばるグループ合計約1000社の国際税務の対応をする部署にジョインしたわけです。まだ参考文献も充実しておらず、専門家に聞いても明らかになりきらない部分も残るなど、暗中模索の日々でした。しかしそうした中でも課題解決に向けて動かなければなりません。

チームやグループ関係者、外部専門家と協働して対応に当たるのですが、皆さん能力的にも人間的にも非常に尊敬できる方ばかりでした。自分の能力をはるかに凌駕していると感じるくらいハードな日々ではありましたが、そのような環境で仕事ができることに、心から幸せを感じていました

40歳目前、司法試験に再挑戦

――そうした環境の中で、司法試験への再チャレンジを決意されたのはなぜですか?

ロースクール卒業後、司法試験を受験できるのは3回までです。私は当時3回チャレンジしたのですが、合格できませんでした。ただ、司法試験予備試験という、ロースクールの修了資格と同等に司法試験の受験資格を得られる試験に合格できれば、また挑戦することができます。
40歳目前、再挑戦するとしたら今が最後のチャンスというタイミングを改めて考えたとき、「このまま諦めたら死ぬ間際にきっと後悔するだろう」と思い、決意しました。

仕事と勉強の両立は本当に大変でした。何しろ当時合格率4%弱という難関試験です。特に通常業務に加えて会社の研修で英語の勉強が加わったときは、さすがに「もうだめかも……」と心が折れそうになったこともありました。それでも何とか諦めずに続けられたのは、やっぱり心の根っこの部分で「法律が好きだ」という想いがあったからだと思います。合格できたときは、本当にうれしかったですね。

この司法試験予備試験に合格すると、翌年に8~9割は司法試験に合格するという実績があります。自分もおそらく合格できるだろうと思っていたのですが、決算最繁忙期の5月に試験がバッティングしてしまったこともあり、なんと一度不合格になってしまいました。がっくりと肩を落としていた私を見かねて、同僚が飲みに誘ってくれました。その際に「中山さんにとってはとても残念なのでしょうが、私にとってはもう1年一緒に働けることはうれしいですよ」と励ましてくださって、本当に身に沁みました。

このエピソードからもお分かりいただけるように、NTTファイナンスでは本当に素晴らしい同僚に恵まれました。社会人になってから属したチームの中でも一番と言っていいと思います

「町の弁護士」の理想と現実

――司法試験に合格できたのは、その翌年ですか?

はい。翌年、無事に司法試験に合格することができました。その後、1年間の司法修習を受講するため、やむなくNTTファイナンスを一度退職。司法修習修了後は法律事務所に入所し、弁護士としての活動をスタートしました。

そもそも私が改めて弁護士を志望した一番の理由は、困難な状況にある市井の人の助けになりたかったということ。その目標をかなえるべく、中小企業のサポートや民事事件を主に扱いつつ、人権活動にも注力する法律事務所に入所しました。

窮地を救うことができたクライアントの中には「あなたのような一生懸命当事者に寄り添ってくれる弁護士には初めて会った」と感謝の言葉をくださる方もおられ、そんな時には非常にやりがいを感じることができました。また、公益活動として福島の津島原発訴訟において、原告のサポートに関わる機会もありました。『津島』というタイトルで映画化もされています。

こうした意義深い仕事には恵まれましたが、実際の働き方としてはかなりハードではありました。その反面、活動の性格上、報酬も大きなものではありません。こうした働き方をいつまで続けられるか、現実的な問題についても考えるようになりました。

そんな状況の中、NTTファイナンス時代の元同僚は時折連絡をくれたり、チームの飲み会の際などには声をかけてくれたりするなど、私のことを気にかけてくれていました。これは本当にありがたかったです。

こうしたつながりが続いていたことや、BEPS対応について最後まで見届けることなく退職せざるを得なかったという心残りもあり、だんだんとNTTファイナンスに戻りたいという想いが芽生えてきました。その意志を元上長に伝えたところ快諾していただき、私の受け持つ事件が完了するまでは法律事務所と兼務という形で再入社。退職前と同じチームに所属し、同じ業務にアサインしていただいています。

NTTという恵まれた組織で働くことの魅力

――再入社して、感じていることがあれば教えてください。

やはり、NTTという恵まれた組織で働くことのメリットです。

法律事務所に所属しているとはいえ、弁護士としての働き方はほぼフリーランスです。働き方が自由に選べたり、自分の仕事がクライアントからの評価や報酬といった形で直接返ってきたりすることは、良いときには魅力となりますが、悪い時には責任や負担が全て自分一人にのしかかってきます。

こうした働き方を経験して、改めて会社組織に戻ってみると、業務で困った時、キャリアで悩んだ時、優秀な上長や同僚にすぐに相談でき、的確なフィードバックが返ってきたり、必要な材料を手配してもらえたりすることは本当にありがたいことだと痛感します。

――今後の目標について教えてください。

BEPS対応に加え、デジタル経済課税に関しても大きな進展が起こりつつあります。私が最初に入社したときから引き続き、国際税務はOECDが「100年に一度」と称するくらいの一大転換期。この激動を乗り越えて世界がどうなっていくのか良い形で見届けるべく、まずは、新しく制度化されたグローバル・ミニマム課税関係の対応をやり遂げ、チームに貢献したいという思いです。

それ以上先のことについて、明瞭な展望を持っているわけでは正直ありません。ただ、長く生きていると、過去の経験が思いもよらない形で活かせる状況がやってくることがあるかもしれません。

いつか弁護士としての経験が、何らかの形で今の会社に役立てることがあればいいなと思っています。

あとがき

弁護士になるという夢を諦めず、仕事と両立させながらその目標を叶えた中山さん。その後紆余曲折を経て、NTTファイナンスに再入社という道を選ばれました。

ハードかつ異色のキャリアという印象を受けましたが、お話を聞いていて感じたのは、中山さんご自身の「レジリエンス」です。困難な状況下で自分を鼓舞したり、時には周囲からのサポートを得ながら、ピンチを乗り越え、その時々のご自身にとってベストな道を選び続けてこられたことに、ある種のしなやかさを感じました。

まだまだ大転換期にある国際税務の世界。そんな渦中に経験も知識も豊富な中山さんが戻ってきてくださったこと、NTT財務一同非常に頼もしくうれしく感じています。ぜひ互いにサポートし合っていけたらと思います。今回はありがとうございました。

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